2007/06/04 (Mon) 【紐緒】 もう戦争ね

ガチャン！

「絶対に許せない！」



紐緒よ。

今はオーナー室にいる。
さっき、何物かに荒らされたＬＣＣから戻ってきたところ。

本来の目的はあそこの事務所のセキュリティ設備の設置指揮だったんだけど、
極秘に被害状況を調べさせてもらったわ。


やっぱり私の思ったとおり、あれはプロの手口ね。
でも、日本では見ない手口だったからおかしいとは思ってたんだけど……

ここまでなっているとはさすがの私も予想外だったわ。










被害状況を伊集院に話していたところに、彼女に２本の電話。



１本は神谷さんに勝手に監視させるようにＳＰからの電話、
なぜか横浜駅に向かってるとの情報。

「どうしたのかしら？こんな状況で他の場所にいく余裕なんて……」

そう伊集院が言ったところにもう１本。
ナンバーディスプレイには「ＬＣＣ」の文字。

あら？社長はいないはずなのに？
伊集院さんは私にも聞こえるようにスピーカーホンにしてくれた。

掛けてきたのはＬＣＣの深山さん。

「お願いです！菜由社長を助けてください！」

えっ？という顔をする伊集院。

「おちついて！実は、私は襲われたこと以外神谷さんからなにも聞いてないの。だから、今の状況をできるだけ詳しく教えて？」

「わかりました……実は……」

深山さんの話に伊集院がみるみる赤くなってくる。
確実に怒ってるわね、私でもそれはわかるわ。


「……そういうことなんです。これは……」


状況があまりつかめてない彼女に伊集院はとうとうしびれを切らせたわ。


「あなたどれだけ神谷さんにくっついてるの！
　いい加減気づきなさいよ！
　チェルシーは清水さんをタダ同然の額で強奪するつもりなのよ！」

「えっ、でもこのファックスには……」

「そんなの出任せに決まってるわよ！
　今までのあの人たちを見ればわかるでしょ？それも信用できないわよ！
　たぶんこれからどんどん値を下げるわ。
　そして最後にはほとんど０。いや、本当に移籍金０でぶんどるつもりよ！」

「ええっ！」

「それからの展開はわかるでしょ？
　狙いはジャパンマネーよ。
　放送料、グッズ、取材謝礼……日本から徹底的に金を巻き上げるつもりだわ」

「そ、それでも試合にでられれば……」

「試合に出すわけないじゃない！
　前に聞いたんじゃないの？
　実力なんてまったく見ていないって！
　せいぜいベンチ入りよ。
　そして、宣伝効果がなくなれば海外の３流リーグに法外な金で売るのが落ちよ！」

「………」

「どうやらわかったようね……
　副収入狙いの選手獲りはよくあることだわ。
　でも、ここまで強引なのは初めて聞いたわ……」

「伊集院さん、やっぱり菜由社長は……」

「ええ、たぶん九州に清水さんを説得しに行ってると思う。
　あなた達まで人質同然になっていれば仕方ないかも。
　さっき、新幹線に乗ろうとしているとの情報が入ったわ」

「わ、わたしはどうしたら……」


「ここから先は私に任せて。
　ＬＣＣや清水さんの問題じゃない。
　私たちリーグ全体のプライドが掛かってる。

　七瀬さんもそちらにいるわね？
　絶対に事務所から出ちゃだめよ！
　今から最強のＳＰを送るからそれまで我慢して！

　神谷さんは私が言って説得する。
　絶対に連れ戻してくるから！」


「お願いします！」


そして、冒頭のあの言葉よ。


「私たちの存在に気づいたとなれば、もう裏で動いている必要はないみたいね。
　こうなったら戦争よ……
　絶対に負けない……許せない……」


伊集院があんなに怒りに震えてるのは初めてみたわ。
どうやら本気にさせたみたいね。


「紐緒さん！
　先にＬＣＣに言って彼女たちを守って！
　あと、監督に言って今日の練習は終わりにさせて！
　彼女たちを呼ぶから！」


とうとう出番というわけね。
まさか本当に出番が来るとはね……と中の人も言ってたわ
さて、最新のスタンガンの準備をしましょうか。
【紐緒　結奈】